「 古民家再生 」リフォームのメリット・デメリット
「親族から家を受け継いだ」とか、地方に移住するにあたって「古民家を譲り受けた」といったように、古い家に住むことになった場合には、いくつかの選択肢があります。
・そのまま住む
・取り壊して建て直す
・古民家の特徴を活かしながらリフォームする
このどれかになるかと思いますが、古民家自体は様々な方面から価値のあるものとされています。また、先祖から受け継いだ家に対しては思い入れも大きいと思います。
近年では、古民家再生リフォームをして、住みやすい家にしたり、カフェやゲストハウスなど人の集まる空間にしたりする取り組みが増えてきています。ここでは、古民家自体の「 良い点・悪い点 」や、リフォームをするにあたっての「 メリット・デメリット 」について紹介しています。
「 古民家 」とは
一般的に古民家とは、建築後50年以上経過した建物とされています。一般社団法人全国古民家再生協会が定義する「古民家」は、『昭和25年の建築基準法の制定時に既に建てられていた「伝統的建造物の住宅」すなわち伝統工法とする。』ということです。
とはいえ法律に定められているような明確な古民家の定義というものはないそうで、ざっくりとしたイメージで「 古き、良き、伝統家屋 」という理解でいいかと思います。
たとえば古い神社やお寺を思い出してみると分かりやすいかと思います。
風通しの良い、自然と共生する作りになっていることや、柱や梁が材料の木の形そのものであるように、不揃いな自然素材を生かした建築で、それでいてあんばい良く納まっているという、昔の職人の高度な技術や工夫のもとに建てられている建築物です。
伝統工法による建築で、瓦葺き・茅葺き・草葺きの屋根、土間、太い梁などを見ることができます。
建築物としての良い点・悪い点
部材の強度が高い
神社仏閣に使われているヒノキやケヤキは800年~1,000年もっていることから、柱や梁に使われている部材は非常に強度の高いものを使っています。
また杉材などの普通の木材は伐採後から強度が落ちていくのに対し、ヒノキはなんと強度が増していきます。200年後に強度のピークを迎え、そこから緩やかに強度を落としていき、約1,000年後にようやく伐採直後の強度になるそうです。
希少価値が高い、入手困難な部材を使っている場合がある
日本は山林国家であり、その多くは杉とヒノキでした。
人口の少なかった昔は建材としてより優秀なヒノキがよく使われていましたが、ヒノキは植樹から伐採までの期間が杉より10年~20年ほど長くかかるため、人口の増加(建築の需要の増加)と共に植樹されるのは、生長の早い杉が優先されていき、ヒノキが手に入りにくい状況になっています。
そのため新たにヒノキを大量に入手することは難しく、古民家の部材は価値の高いものである可能性があります。
また木目が美しく、非常に硬いことで知られるケヤキの一枚板なども一点物として価値が高いものがあります。
環境に良い素材を使っている
古民家では、湿度や温度により膨張・収縮をする木の特性を生かして、木と木を組み合わせて作る木造軸組工法という建築方法を利用しています。余計な接着剤を使ったり、密閉して空気の流れを滞らせたりしないようにしてあるため、環境や住む人にとって優しい建築です。
アレルギーやアトピーの療養のために古民家に移り住むということもあるくらい、現代建築とは異なった価値観のもとで建てられています。
趣がある
日本古来の伝統的な建築方法で作られていて独特の趣があります。好きな人はたまらないでしょう。
断熱能力が低い
木の特性上、乾燥すると収縮するため冬に乾燥する地域だとすきま風が入ってきやすく寒くなります。また天井を高く作ってあるところも多く、これまた暖かい空気が上の方に溜まって寒くなります。
当然、現代の断熱材などを使っていることもないので、住居としてリフォームする際には断熱工事は必須となるでしょう。
現代建築と比べ耐震性が弱い
古民家は古い耐震基準で建てられているため、今の建物と比べるとどうしても耐震性に不安のある建物となっています。
ただし必ずしも地震のことを想定していないというわけではなく、たとえば建物全体への被害を抑えるためにあえて一部に振動を集めて倒壊させることで全体の倒壊を防ぐ、というように、どこかに被害が出ることをあらかじめ想定した造りになっている家もあります。
防火能力が低い
やはり木造建築のため、耐火性はあまりなく、また茅葺屋根なども炎を広げやすい構造になっています。
リフォームの際に防火対策をしっかりやらないと火災保険料が高くなる可能性があります。
害虫の侵食のおそれがある
古民家によく使用されているヒノキは害虫に強い木材ですが、それでもシロアリなどの被害を受けている可能性があります。梁や柱が天井や壁に埋もれている構造の場合、リフォームを開始して初めてシロアリの被害に遭っていたことがわかる、といったケースもあります。
こまめなメンテナンスが必要になる場合も
古い材料を再利用することが多いため、リフォーム後にもこまめなメンテナンスが必要になる可能性があります。
特にゲストハウスやカフェなど、不特定多数の人の出入りがある施設にする場合にはより注意が必要です。
古民家再生リフォームで主に行われる工事
さて、実際にリフォームをするとなった場合、どのような工事が行われるのでしょうか。前提として、リフォーム後にどう使うかによって内容は大きく変わってきますが、居住用としてリフォームする場合に絞ると、おおよそ以下のようになります。
基礎工事
伝統構法では、床下の基礎はありません。その家に長く住むためにも、また地震で倒壊するのを防ぐためにも、基礎工事は必要です。
断熱
あえて空気の通りをよくするような造りになっているのは事実ですが、壁や窓が薄く、間が断熱構造にもなっていないため、壁や窓から冷えて(もしくは暑くなって)しまいます。
断熱対策をしていないと冷暖房に費やすコストも大きくなってしまうので、断熱工事も必要となるでしょう。
古民家の高い天井を生かす場合には、天井にシーリングファンをつけるなどして暖かい空気を下におろす工夫もできます。
耐震
現代建築は、やはり地震に対する耐久性が格段に良くなっています。古民家の構造や雰囲気を生かしながら耐震構造にする工夫もできるため、耐震工事も重要です。
水まわり
古い建物はトイレが和式であったり、キッチンカウンターが低かったりするところが多いため、水回りも使いやすくしていく必要があります。
屋根、外壁など劣化部分の補修
長年外の環境に晒されていた屋根や外壁は、内部と比べるとやはり大きく劣化しています。したがってその部分の改修工事も必要になるでしょう。
また屋根や外壁に塗る塗料によっては、それ自体が汚れを防ぐものや断熱性を高めるものもあるので、見た目だけでなく機能性を求めることもできます。
床の張替え
床が劣化していたり、和室と洋室を分けてみたりなど、好みやコンセプトによって床を張り替えることも考えられます。
間取り変更
動線を変えたり、壁を取り除いて間取りを広くしたり、あるいは広すぎて落ち着かないから狭くしたり、など必要に応じて変更することもできます。ただし動かせない柱があったり、柱を含む壁などを取り除けなかったりする場合もあるので、状況に合わせて柔軟に考える必要があります。
バリアフリー、環境配慮システム
どんな方が住むのか、何年住むのか、何世代にも受け継いでいくのか、ということを考えると、バリアフリー構造にして転倒事故が起こりにくいようにしたり、長期的に環境に配慮できる家にしたりする必要もあるかもしれません。
また、バリアフリーや省エネ住宅には補助金が出る場合もあるので国や自治体の制度を利用するのもいいかと思います。
これまで、古民家自体の良い点と悪い点について書いてきましたが、リフォームをすること自体にもメリットやデメリットがあります。
リフォームのメリット
固定資産税を軽減できる場合がある
固定資産税は、「固定資産評価額」をもとに算出されますが、新築でない物件にはこの評価額に「経年減価補正率」という数字を掛け合わせることになっています。経年減価補正とは、古くなるにつれて価値が下がっていくという考え方に基づいているものです。
経年減価補正率表によると、最も評価額が下がるのは経過年数が27年を過ぎた時からで、0.2まで下がります。
つまり、築年数が27年以上経っている家は、新築の時の固定資産税の20パーセントまで下がります。
古民家の特徴を生かして高いデザイン性でオンリーワン
古民家自体がプレハブやテンプレートをもとにしているものでないため、唯一性の高い建築です。それに加えて、使っている部材も木が自然に成長した形をそのまま生かしたものを使っていると、さらにオンリーワンの建物となっています。
そこから現代の生活に合わせて、かつ、アイデアを盛り込んだオリジナルの住居にすることができます。
再利用で廃棄物削減
部材を再利用するということは、新たに木材を伐採する数が少なくて済みますし、リフォーム前の家から出る廃棄物の量も減らすことにつながり、地球環境に優しくサステナブルな取り組みであるといえます。
リフォームのデメリット
広範囲のリフォームになりやすく、コストが掛かる傾向にある
古民家は現在の住宅と比べて土地を広く使っていることが多く、全面リフォームしようとすると広範囲にわたって改修することになり、しばしばコストが高くなる傾向にあります。
新築よりも工事に時間がかかる
新築工事と違ってリフォーム前の家からはどうしても解体作業が入ります。その作業が入る分、工期が長くなります。
予定通りにいかない場合がある
外見からは分からなかった劣化などが後から見つかる場合があるため、住み始めてから後悔しないためにも工期・コスト・デザインなどに関しては、ある程度柔軟に対応できる必要があります。
古いものの中にもいい部分が詰まっているものです。古い家に新しい技術を吹き込むことによって、古き良き時代に思いを馳せながら、次の世代にも続いていける家が出来ると素晴らしいですよね。