雨水タンクの活用・補助金
雨水を利用することは、人間の歴史の中で長く培われており、数千年前から痕跡が見つかっています。日本においても、枯山水が雨水を地面に浸透させて洪水を防ぐ仕組みを持っていたり、18世紀の貝原益軒(かいばらえきけん)のHow to 本「養生訓」にも雨水の利用のことが書いてあったりと、日本人も昔から雨水を利用しています。
本コラムでは、現代の家庭規模で行うことのできる雨水利用の設備「雨水タンク」について紹介します。
雨水タンクとは?
屋根に降った雨水を貯める容器のことを言います。雨水タンクという呼び方の他に雨水利用タンク・雨水貯留タンク・ホームダムなどとも呼ばれます。
通常は、屋根に降った雨は雨どいに流れてそのまま排水されますが、雨どいから雨水タンクに流すことで雨水を貯める仕組みになっています。
タンクの容量、使用頻度や生活スタイルによって大きく変わりますが、雨水タンクを積極的に使うと年間で数千円の水道料金節約になります。
雨水タンクの活用例
ガーデニングの水やり
一般的に、植物への水やりには水道水を使っていると思いますが、水道水は人間が飲めるように塩素などの化学物質を用いて消毒処理がされています。もちろん、蛇口から出るときには生物に害が出ないようにほとんど感じられないほど薄められていますが、植物にとっては、水道水よりも化学処理されていない雨水の方が良いのです。
夏の打ち水
夏の暑い日の打ち水として利用することができます。打ち水は涼感を得られるだけでなく、撒いた水が蒸発する時に生じる気化熱で実際に空気を冷やすことができます。また、地表の温度を下げて上空との温度差が生まれることでそこから風を生じさせ、熱い空気を移動させることもできるのです。
洗車用水
車を洗う時にも雨水タンクの水が役に立ちます。雨水タンクは外にあるため、雨水タンクの近くで洗車すれば、簡単に洗車することができます。
浸水被害の軽減
大雨が発生したとき、下水道が雨水を受け入れる限度を超えて、水が溢れてくることが近年増えています。
地域の多くの家で雨水タンクを採用すると、下水道(排水溝)に流れ込む雨の量の一部を雨水タンクが請け負うことで、下水道(排水溝)から水が溢れてくるのを阻止する、もしくは遅らせることができます。
実際のところ、排水溝や川に流れるのを遅らせるだけで川の氾濫を防ぐことにつながるため、各家庭のわずかな量のタンクであっても、治水事業の一環として推奨されており、雨水タンクの設置に補助金制度を設けている自治体は多くあります。
災害時の非常用水
これが最も重要な使い道です。地震などの災害時は、インフラ設備にダメージを負って水の供給が止まってしまうことがあります。また、長い間雨が降らず水不足になってしまうこともあります。
雨水タンクの水は雨水なので、飲み水にはできませんが、トイレを流すときや洗濯のときなど、いわゆる生活用水として使うことができます。
災害時にはどのくらいの水が必要となるのか
東京都水道局によると、普段の生活では一日一人当たり、平均200L超の水を使っているということです。
災害が起きて水不足になったときには、お風呂や洗濯に使用できる水がほとんどなくなり、生命維持を優先することになり、水の使用用途が限られます。主に手洗いやトイレ、食器洗いに絞って使うことになり、その場合に一日一人当たり水が10L~20L必要と言われています。
1997年の阪神淡路大震災では、130万戸で3か月間断水した事例があります。
当時は2~3日後に給水車が手配されましたが、人々の生活を十分に補うには足りず、水道の完全復旧まで最低限度の水の使用を余儀なくされていました。
それを鑑みて、政府は現在、給水車が来るまでの3日分の生活用水の確保を各家庭に推奨しています。
飲用水で一日一人3L×3日分で9L×家族分、その他の生活用水一日一人10~20L×3日分で、30~60L×家族分の確保が必要ということになります。4人家族なら、飲用水で36L、生活用水に120~240L必要ということになります。
また水の取得が給水車頼みであった場合には、その量の水を給水車から家まで運ぶということでもあります。
雨水タンクの注意点
メンテナンスが必要
屋根を伝って流れ込んだ水なのでタンク内にはホコリや砂が流入します。また、タンクは基本的に密閉されていますが、屋根伝いにコケの胞子などを入れてしまうこともあるのでコケやボウフラが発生する可能性があります。
そのため、定期的にタンク内の清掃をする必要があります。
雨水タンク内の砂やホコリは、タンクの底に沈殿しています。タンクの底部には排水口ドレンがあるので、排水口ドレンを開けて水を排出し、上からホースで流すとキレイに汚れが流れていきます。
排水中には雨どいに取り付けてある集水器を取り外してフィルターの掃除もしましょう。
タンク内の掃除のタイミングは、雨の前がおすすめです。掃除をすると雨水タンクは空っぽになってしまうため、その後雨が降らずに水不足になってしまっては元も子もありません。雨が降る前であれば掃除してきれいにした直後のタンクに新たに水を貯めることができるため、次回タンクの水を使う際にも汚れを心配しなくてもよくなります。
基本的に飲用水としては使えない
雨水は水道水のように化学処理されておらず、かつ清潔ではない生水ですのでそのままでは飲用はできません。
最近はアウトドア用品でも生水を浄化して飲用に適した水にすることのできる浄水器もあるため、ひとつ持っておけば重宝するかもしれません。
設置スペースの確保と安定した場所が必要
雨水タンクいっぱいに水が貯まると、かなりの重量になります。
例えば普通のドラム缶は、直径60センチの横幅に高さ90センチで、200Lの容積ですが、つまりドラム缶に水が満タンで200kg、さらに容器の重さが合わさったひとかたまりになります。
一般家庭用の雨水タンクも150L程度なので、ドラム缶に近いサイズになります。
設置する時は必ず水平で平らな場所と安定した地面でなくてはなりません。ぬかるみやすい場所や傾斜している場所に設置することは非常に危険です。
雨水タンクの大きさ
一般家庭用150L未満サイズ
プランターの水やりなどの少量利用、設置スペースが狭い場合などに使われる小型サイズです。150Lは災害時には2~3人分の生活用水としてまかなえるサイズとなります。
一般家庭用150~500Lサイズ
このサイズが最もよく設置されています。普段は様々な用途に使っても余裕があり、災害時には1~3世帯分もまかなうことができるサイズがあります。
大型500L超のサイズ
学校などの公共施設や工場などで採用されるサイズです。一般の家に置くにはスペースの確保が大変です。
雨水タンク導入の補助金制度
補助金制度は主に市区町村で行われており、それぞれ要件は異なりますが、設置工事費の1/2以内で、上限金額は10,000~50,000円程度の補助を出している自治体が多いです。
また、これも市区町村によりますが、土地が傾斜していたり、地下水が地面から近くにあったりする場所はタンクの転倒や地盤沈下のリスクがあるため設置条件が厳しくなっていることがあります。
細かな条件は自治体の補助金の要項に記載されているので、お住まいの地域が規定を設けているかも調べる必要があります。
まとめ
異常気象による洪水被害が増えていますが、雨水利用施設も年々右肩上がりで増えています。各家庭をミニダムとして雨水の流出を遅らせることで災害を防ぐことができうるのが雨水タンクです。
自分の身を守るだけでなく、財産を守ることにも、地域を守ることにもつながるので、このコラムで雨水タンクについて関心を持つきっかけになればうれしく思います。